2019年 11月号 「珍しい美術企画展」
10月12日から清須市はるひ美術館で開催されている、美術館開館20周年記念企画展「嗅覚のための迷路」を鑑賞してきた。はるひ美術館は旧知の高北幸矢氏(元名古屋造形大学学長)が館長を務め、特色のある企画展を実施している美術館である。
今回は絵画や造形物の展示ではなく、嗅覚による鑑賞として上田麻希氏(慶應義塾大学大学院政策メディア研究科修了)の作品が展示され、嗅覚による初めての鑑賞を経験した。
人間の感覚は分類として五感(視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚)があるが、美術館等で開催する展覧会は視覚によるものが殆どで、作品によっては触覚で確認する作品も出てきている。
本来、芸術鑑賞は視覚と聴覚を働かせることにより成立していたが、最近は新たな創造作品が出現し鑑賞方法も変化しているようである。特に映像メディアの発達が著しく複数の感覚を働かせて鑑賞するようになっている。
美術展でBGMを流す中で鑑賞する場合もあれば、多くの美術館が作品について音声による解説を取り入れていている場合がある。その場合、鑑賞者は視覚と聴覚を働かせて鑑賞していることになる。
嗅覚による芸術鑑賞は一般的ではないが、一方でアロマテラピーが良く知られている。エッセンシャルオイルによる芳香を用いて心身の健康やストレス解消を目的とする療法が科学的に認められているが、それが拡大して空間のムード作りやインテリアの一種として用いられている。
今後芸術として認知されるには、単独ではなく複合的な表現となることが求められる。嗅覚は従来から味覚と密接に結びついており、食品を料理し相応しい食器に盛り付けて、食べる前から食欲をそそる香りが料理を一層引き立ててくれる。また、実際に視覚的に美しく見えることも重要である。
聴覚による音楽分野の鑑賞においては、実際に会場に出かけて生演奏を鑑賞する場合と自宅でCDやDVDを鑑賞することがあるが、CDやDVDは聴覚を働かせるだけで済むが、生演奏の鑑賞であれば、聴覚と視覚で鑑賞することになる。
演奏家が公演を行う場合、演奏の技術による完成度を第一に考え準備をしている。もちろん演奏の完成度が大事であるが、鑑賞者が聴覚だけで内容を評価するには、芸術教育を経験することが必要と考えている。
鑑賞者が服装や演奏スタイルなどの視覚的要素が演奏にとって大きな影響を与えていることを意識することにより、演奏家の演奏に対する自信の表れを感じ、聴覚芸術を視覚によって補完することを自然に行っていると考えている。
嗅覚が視覚や聴覚と関係性を持ってどのように発展するのか考えさせる企画展であった。