2022年 7月号 「オーケストラの歴史IV」
楽器による演奏者気質について、元NHK交響楽団オーボエ奏者の茂木大輔氏が「オーケストラ楽器別人間学」を書き著しているが、私なりにオーケストラ団員としての経験から述べてみる。
楽器によって性格が違うと言われるが、実際は楽器を継続的に演奏してきたから、そのような性格になったのか、性格により楽器を選んだのか良くわからないが、両面の要素があると考えている。私が中学生の時に、吹奏楽クラブ入部の際、顧問の先生に走るのが早いか聞かれ、歯並びを見られてトランペットに決められた経緯がある。性格ではなく、運動能力と楽器に合った身体条件を調べて決められたようだ。
大きく分けて、管楽器と弦楽器では性格が大きく異なる。管楽器は1人1パートの演奏を受け持ち、弦楽器は大勢で1つのパートを受け持つため責任感に違いがある。それは、練習や本番の集合時間を見れば、管楽器は1時間以上前から会場に来てウオーミングアップをして本番に備えているが、弦楽器は時間ギリギリに来ることが多い。
演奏においても管楽器はソロ的な場面において、楽譜通り演奏することはもちろんだが、指揮者の要望に応えると同時に自身の音楽性を発揮する場面が許されるが、弦楽器はコンサートマスターが考えたボーイング(運弓)に揃え、個人プレーは制限されるという現状がある。
管楽器は木管楽器と金管楽器に分かれるが、木管はフルートを除くとリード(振動して音源となる葦の薄片)を使用するため、常にリードの状態を最適に保つために神経を使っていて神経質である。フルートは演奏時間も長く、弦楽器に近い動きがあり、あまり神経質ではない。金管楽器は楽曲の必要な部分で使用されるため、瞬発力や大胆さが求められる。ホルンは木管や金管、そして時々弦楽器とのアンサンブルの調和を求められるので、自身の意思を表現する機会が少ないようである。
弦楽器は高弦と中低弦とは明らかに違いがみられる。高弦のバイオリンは華やかで明るく、ビオラやチェロは上下の声部に挟まれて、常に不満を抱えているようだ。コントラバスは全体を下支えするという責任感が強く感じられる。
オーケストラは、一般社会の組織と比較される場合があるが、特徴として練習段階でいろいろ意見の相違があっても、本番になれば全員が同じ方向を向き、共通の演奏目的に向かい取り組むことができる。これは他の組織にはない特徴である。
オーケストラ組織で全体の意向に対し異論を述べるのは、ホルン、ビオラ、チェロである。演奏楽曲において、高音と低声部に挟まれる中声部を担当するため、音量やテンポなど様々な場面で調整を求められ、自由度が制限されることによると考えられる。