12月号 地域の創造活動を考える
館長 竹本義明
公立文化施設において、地域における創造活動の重要性が認識され、そのための取り組みが盛んになっている。それは、新しく建設された施設が生涯学習や各種講座等に対応する設備が充実し、地域の多様な要望に応える必要性が求められるようになった結果である。
十数年前から実演団体が地域の小・中学校に出かけて演奏や演劇等を上演する「アウトリーチ」と呼ばれる活動が盛んに行われるようになった。本来は手を伸ばすことを意味し、福祉分野などで地域の奉仕活動に公共機関が出張サービスを行うこととされてきたが、芸術の分野では、日頃芸術に触れる機会の少ない市民に対して働きかけを行うことを意味している。最近では、地域の文化ホールが自主企画の一環として、積極的に実演団体や個人を地域の学校や施設に派遣することが増えている。
「アウトリーチ」という言葉が使用される以前は、オーケストラ団体が「音楽教室」と称して地域の小・中学校に直接出かけ学校公演を行ない、クラシック音楽の鑑賞機会を提供してきた。この活動は将来の鑑賞者育成に大きな効果があり、加えてオーケストラにとっては自治体から補助金が支出され運営の安定化に寄与してきた。現在では学校現場の芸術鑑賞が音楽と演劇、そして映画を3年1サイクルで実施をすることが一般化し、中には生徒が直接美術館、博物館、文化ホールなどへ出かけることも多くなってきている。
昨年頃から、新たに「アクティビティ」という言葉が頻繁に使用されるようになってきた。(本来は、はアウトドア・アクティビティと言い、主に屋外で行うスポーツやレジャーの総称で、日本ではアクティビティが省略されアウトドアが一般的となっている。)地域や学校公演におけるコンサートで、コミュニケーションを交えた取り組みが重視され、コンサートとアクティビティがセットとなり、体験や学習など教育目的の活動が含まれるようになり、芸術の分野でアウトリーチに代わる言葉として定着しつつある。
公立文化施設が地域との関わりを深め、地域創造活動を活性化するには、実演家との協力関係が不可欠である。実演家も演奏だけではなく鑑賞者との良好なコミュニケーション能力が求められることから、地域の文化ホールが自らコミュニケーション能力を備えた実演家を掘り起こし、マネジメントを行うことで地域創造活動の促進効果があると考えられる。実演家には、文化ホールが育てて欲しいという願望があり、文化ホールは地域の創造活動並びに鑑賞事業活性化のために実演家の活用を図りたいと願っており、両者の協同関係促進のため、文化ホールが地域の実演家に対し積極的アプローチを実現することで、地域創造活動の展望が拓けると考えている。