5月号 実演家の立場からホールを考える
館長 竹本義明
実演家とは、「実演を行う者及び実演を指揮し、又は演出する者」で、俳優、舞踊家、演奏家、歌手、指揮者、演出家、奇術師などを指す言葉である。実演家の主な活動の場は文化施設のホールで、なかでも演奏家とホールの関係は重要である。ホールはその歴史的経緯として、日本では欧米のホールに比べ、ハード建築物として独立したイメージが強く、そのため本来緊密な関係であるべきホールと演奏家が、貸館と利用者という関係が続いてきたと言える。
一方、舞台芸術に関わる演劇関係者は演奏家に比べ、ホールと密接な関係を保っている印象が強い。それは、舞台設営や照明など会館の諸設備を利用する機会が多く、安全確保の問題もあり、ホール担当者と双方向のコミュニケーションが成立するためと考えられる。演劇関係者はホール建設が計画される場合のヒアリングや、実際に使用する際に多くの意見を述べる機会を得て、ホールの事業計画に多くの影響を与えてきた。
ホールを利用する実演家の中で、音楽関係者が利用する割合が一番多く、中でもプロフェッショナルとして活動をするオーケストラの団員の頻度が高い。楽団員は職業音楽家としての意識が強く、限られた条件の中で与えられた仕事を行うことが求められ、実際の演奏では黙々と与えられた業務をこなしている。こだわりと言えば、舞台への照明角度の適正、備品である椅子の座り心地、融通性ある譜面台、そして楽屋の居心地など自らの演奏を快適に行うことへの意見を述べても、ホールの響きや設備には儀礼的な言葉に終始し本音を述べることがない。ホールでは、演劇関係者の意見が強く、当然それにより多くの改善がなされ、より良い実演が実現されてきた。しかし、実演の一分野の意見に偏った弊害も出てきているように感じている。
音楽関係者の口が重くホールの利用に対し積極的に意見を出さない状況が、ホール事業低迷の原因ともなっているように感じている。ホール関係者がよく口にする残響や響きの問題があるが、オーケストラ団員は会場を選ぶことができず、与えられた会場で最大限の効果を上げるよう、練習段階から音の長さの長短、適切な音量、音の響きについて自ら調整を行っている。そのような習性もあり仕事が忙しく余裕を持ってホールと関わりができないことが、有効な意見が出ない原因としてあると考えている。
しかし、最近では若い世代の音楽家の意見として、ホールが音楽家を育てて欲しいという願望が言われるようになってきた。ホールの関係者は、最もホールを利用する頻度の多いプロフェッショナルの演奏家の意見を引き出すとともに、若い音楽家を積極的に事業に参加させることで、低迷するホール事業の活性化を図ることが出来ると考えている。是非地域で活躍を望む音楽家の活用を進め、新たな聴衆の掘り起こしも同時に実現しては如何だろう。