6月号
館長 竹本義明
6月2日から7日までの6日間というタイトな日程でイギリスのブライトンという都市を訪ねた。目的は、名古屋芸術大学が十数年にわたって姉妹校提携による交流を活発に行なっているブライトン大学卒業制作展に名古屋芸術大学賞を授与するためである。もう一つの目的は、ブライトン大学のアート&アーキテクチャー学部におけるファッションテキスタイルとビジネススタディーズのコースに興味があり、特に現代の実践的ファッションデザインにつながる活動を調査するためである。
ブライトンは、ロンドンから電車で約1時間の海沿いに位置し、ショッピングや観光の街として多くの人が訪れる美しい所である。街の中心にあるロイヤル・パビリオンは1800年代初頭にジョージ4世が王室の夏の避暑を兼ねた住居として建設し、インド風の外観と異国趣味の内装が特徴である。しかし、後のヴィクトリア女王が気に入らず1800年半ばにブライトン市に売却された経緯がある。
もう一つ有名な構造物として、パレス・ピアという絵画やデザインのモチーフになる桟橋が浜辺に突き出ており、ゲームや遊具で遊ぶことができる施設もあり賑わっている。そしてブライトンは実に多くの路地が存在し、目的もなく散策するのに最適な街である。当然イギリスの各都市と同様な骨董品を扱う店があり、現代のファッション性豊かな衣類品ショップも混在している。また、数多くの博物館や美術館そして画廊があり、中には飲食店が展示を担っている。
日本でも最近古民家を改修してインスタレーション(場所や空間を作品として体験させる芸術)という現代美術を展示する例が増えているが、一部の地域を除きまだまだ施設が点在する状況である。ブライトンは面で展開しているため、常に人で溢れている印象がある。
さて、ファッションテキスタイルコースの調査であるが、このコースでは、学生が生地を作り創造性あるデザインを施した作品を制作している。そこに外部から業者が加わり、インターンシップも実施され販売ルートにのる商品が作られている。卒業時にはそれらの作品をプロのモデルによるファッションショーで発表している。製作生地を見せて頂いたが、色調は渋く東洋的デザインの物が多く見受けられた。もちろん対極にある現代的でカラフルな色調とモダンで抽象的デザインの物も多くあり、取り組みへの幅広さに驚いた。
日本における高等教育機関のテキスタイルコースは、織物や布地を素材として芸術作品を作り上げることに主眼をおいているが、音楽分野におけるクラシックとポップスの関係と同様、ポップス音楽のようにビジネスの視点に重点をおいていることが、作品を身近なものと感じさせている。創立150年となるブライトン大学のコース展開が、アートマネジメントの在り方を考えさせることとなった。