2014年 6月号 劇場・ホールの活性化への提案
先月の館長便りで、劇場ホールにオーケストラの設置を期待する記述をしたが、実際にオーケストラの公演を定期的に実施するフランチャイズ契約を締結しているのは、全国で6団体7か所である。(2008年4月号「公立文化ホールのフランチャイズ」)
このような取り組みは、演奏回数を増やし事業収入増を図りたいオーケストラと、自前の演奏団体を持たないホールの事業運営活性化への要望が一致して実現している。ホールの活性化に効果のある中規模オーケストラを専属で雇用する場合、私なりの試算では運営費を含めて10億円が必要である。年間100回前後の演奏会の開催が可能となるが、当然ホール周辺地域でのアウトリーチ活動も展開でき、地域の文化環境が向上することになる。
私案では劇場職員100人(内訳は6人の専属歌手、専属指揮者、ピアニスト、16人の専属合唱団、36名編成のオーケストラ、事務管理職2人、職員10人、6人の俳優、6人のバレエ団、8人の舞台スタッフ、8人の舞台装置、衣装工房職員)を最長5年契約の雇用とし、平均賃金を年額400万円(社会保険料等を含む)とすれば人件費4 億円、一般管理費1億円、維持管理費2億円、文化振興事業費3億円の計10億円で運営できるシステム構築したい。当然公演による収入が運営費の3割から4割確保することを目指すが、システム実施の経済効果を加えると収支が大きく落ち込むことは考えられない。
事例としては、兵庫県立文化センター管弦楽団が楽団員を3年契約で雇用し、ホールの活性化に効果をあげていることや、昨年の4月28日朝日新聞の波聞風問(安井孝之)に「成長戦略に芸術のスパイスを~地域活性化~」パソナが廃校を譲り受け、人口減少と耕作放棄地が増加する淡路島で地域活性化の試みとして、音楽や美術を学んだ若者が集まる「ここから村」を始めた。月給10万円で午前中は農作業、午後は芸術文化を学び学校やホールで公演する。集まった芸術家は100人である。産業振興にスパイスとしての文化や芸術を付け加えるというものがある。
以上のような取り組みは、地域やホールによる若い芸術家の育成、地域の芸術環境の充実につながり、文化環境が向上すれば若手の芸術家が移り住むことにもなる実例である。上記の劇場職員100名の雇用が実現すれば、オペラ、バレエを含む幅広い舞台芸術が可能となり、恒常的に施設の稼働率が上がることとなる。
また、自治体が単独で劇場職員を雇用するには、現状では予算的に都道府県レベルの施設以外に実施できる可能性が少ない。しかし、いくつかの自治体が連携して取り組みを行うことにより予算の負担の軽減になり、より実現性が高まると考えている。知多半島5市5町で雇用するのが現実的であると考えられる。欧米では当たり前の劇場ホールと実演団体の関係が広域自治体で実現すれば、日本で初めての取り組みとなり、文化芸術振興や観光、産業への影響が期待できる。