2014年 7月号 日本音楽芸術マネジメント学会・2014夏の研究会
日本音楽芸術マネジメント学会の2014年度夏の研究会が、東京藝術大学音楽学部で開催された。今回のテーマは「音楽大学の社会における役割」として、東京藝術大学の理事・教授である渡辺健二氏による基調講演があり、続くパネルディスカッションを北風幸一文化庁文化部芸術文化課文化活動振興室長、下八川共祐東成学園(昭和音楽大学)理事長、中川俊宏武蔵野音楽大学教授、そして私名古屋芸術大学学長がパネリストを務め実施した。
冒頭、学会理事で昭和音楽大学教授根木 昭氏から、本フォーラム開催にあたり事前に音楽系100校に行ったアンケートについて報告があったが、残念ながらアンケート回収率が18.6%と低く明確な傾向を探ることが困難であった。100校の中には地方の国立系教員養成大学が含まれ、音楽専攻とするアンケートに躊躇する大学が、音楽系大学という枠組みに悩んだ結果であろうと考えている。
音楽系と一口に言っても、音楽学部を設置している大学は全国に30校弱であり、そこでは従来からのピアノや声楽、弦管打楽器を中心としたクラシック音楽教育を展開し、最近ではジャズやポップス、アートマネジメント教育に力を入れている大学もある。また、芸術学部を設置してその中に音楽科を設けている大学も同数程度ある。そして、文学部や教養学部、メディア関係学部等に音楽科、コースを設けている大学と、教育学部の教員養成大学に分けられ、全体で100校程度となっているのが現状である。
今回のディスカッションで、総合司会を務めた中川俊宏教授が「近年の国の文化政策における音楽系大学の位置づけ」として資料を準備していただいた。大学の使命・目的が教育・研究に加え第3の使命として社会貢献、地域貢献が求められるなか国の文化政策との関係が音楽系大学にとって重要となっている。
文化芸術振興基本法(平成13年12月7日)が施行され、文化芸術の振興に関する基本的な方針が閣議決定され、第3次閣議決定(平成23年2月8日)において、大学及び教育機関の取組を促す文言が明確にされ、平成23年には、次代の文化を創造する新進芸術家育成事業が開始された。そして、劇場、音楽堂の活性化に関する法律(劇場法)(平成24年6月27日)が施行され、平成25年3月29日には、劇場、音楽堂の活性化のための取組に関する指針が出され、同年に大学を活用した文化芸術推進事業が開始された。
実際のアンケート結果によれば、音楽系大学は、数多くの公演や公開講座を実施しているが、市民との関係性が弱く、社会との交流や劇場、音楽堂との連携が求められる。アウトリーチ活動による教員・学生の派遣に取組む大学が増加し、音楽関係の専門人材の育成として、研修機会の提供、地方公共団体との連携による人材育成に積極的に取り組んでいる大学もあり、社会的な役割を立派に果たしている大学も見受けられる。今後もっとも求められることは、音楽系大学と劇場、音楽堂との連携であると考えている。