2022年 8月号 「オーケストラの歴史V」
5回目は指揮者について述べる。オーケストラの指揮者は、演奏者をまとめ作品に思想や個性を与え、聴衆に伝えることが役目とされている。世界には長年にわたって特定のオーケストラを指揮し、相性の良さで聴衆から高い評価を得た有名な指揮者が多く存在する。
将来やりたいことに、オーケストラの指揮者(音楽監督)、野球球団監督、映画監督などがあげられるが、理由としては監督の采配で組織が動くと理解しているからだろうと考えられる。
実際には野球監督や映画監督は、組織に対する采配権限が与えられ、自らの意のままにチームを動かしている。しかし、指揮者とオーケストラは一方的な指示命令が成立しない関係となっている。演奏する曲の内容について、指揮者の指示について楽員の意向が反映される余地があり、ある意味協働作業である。
オーケストラ楽団員は終身雇用の団員と、必要な時に依頼するエキストラとなるが、指揮者は回数や年限を区切った出演契約である。また、基本的に指揮者は楽団員の人事についての権限を有しない。
指揮者は所属オーケストラ演奏会の曲目や独奏者について意見を述べることができるが、皆さんが考えているほど権限があるわけではない。最初に述べたように、楽団員の意見をまとめ自身の作品に対する思想や個性を理解させ、聴衆に伝えることが役目である。このように指揮者の役目を知ると、明らかに野球監督や映画監督と異なることが理解できる。
私の経験から、オーケストラにとって評価の高い指揮者は、練習時にだれでも理解できる簡潔な言葉で指示をする。また、曲のテンポについて、全体が乱れない演奏しやすい速さを提示する。強弱のバランスについて適切なアドバイスを行う。
そして、曲中で表現が最も効果が出るテンポの遅い楽章やフレーズに時間を割き、簡単なフレーズは楽団員に任せて決して余分な時間をかけることがなく言葉も短い。以上が評価の高い指揮者の共通した認識である。
指揮者に多くの名称が存在する。音楽監督、常任指揮者、客演指揮者、正指揮者(N響のみ)、首席指揮者、名誉指揮者、桂冠指揮者、創立指揮者等がある。実際の演奏活動に関わる条件を示す場合と、職を辞任してからの名誉的な名称に分かれる。
実際にオーケストラと多くの公演を行うのは、音楽監督、常任指揮者であり、ほかの名称指揮者は多くて年1回程度である。名誉的な名称指揮者は、オーケストラに貢献した指揮者に贈られ、数年に1回の公演があるかないかである。
最近は、オーケストラ組織が企業経営のビジネス組織と比較される場合があるが、楽団員の自立性を担保したフラットな組織と、指揮者との協調性が評価されているようである。