2023年 1月号 「武豊春の音楽祭に見る演奏者の意識変化」
「武豊春の音楽祭2023」はホール演奏が21公演、そのうち輝きホールが8公演、響きホールが13公演で合計21公演が実施される。実際に音楽祭実行委員会で経費を負担して実施するのは6公演となっている。
音楽祭開催期間中の土・日曜日に会館のオープンスペースで14公演が開催される。これらは気軽に楽しめる無料コンサートとなっている。有料となっているホールでの公演は地元出身者や過去にゆめたろうプラザで公演した団体、個人が出演を希望し実現している。
オープンスペースの無料公演は、公演時間が30分となっているが、地域で活動している方に参加していただき演奏者と観客が一体となった公演が期待できる。
今回、ホールを使用する市民企画コンサートは15公演となっているが、12公演のチラシが出演者により作成されチケット販売を行っている。出演者の意識が変化し、これからの演奏家が取り組む資質が問われる時代に対応していることが分かる。
私は以前から演奏家は自らマネジメントの資質を持つべきと考えてきたが、最近になっ
てそのような演奏家が増えてきたことが感じられ、将来が期待できると考えている。
芸術が社会的に成立する4つの要素として「創造」「享受」「教育」「分配」があるが、演奏家は従来から演奏技術の習得と向上である創造に力を注いできたが、それだけでは不十分となってきている。
演奏を享受する観客に対する対応として、アウトリーチの機会も重要である。また、学校教育現場や社会教育の場での取り組み、そして何よりも演奏を効果的な場で実施し、望む成果を得るために、分配の専門であるマネジメントの手を借りることが必要であった。
地域の文化施設では、若い演奏家を対象としたワンコインコンサートなどを実施することが多くなってきているが、あくまでも会館が事業を構成し、一定の条件の中で演奏を提供することに止まっている印象をうける。
今回の武豊春の音楽祭2023に出演する市民企画の出演者は、自らチラシを作成し分配の一部を担い、全体として期待の持てる公演になると感じている。そして、演奏会の在り方も変化し、演奏者が公演の中で曲目の説明をする機会も増えている。
過去には、そのような場面では効果的で、適切なコメントであったと言い難い例が多く見受けられる。しかし、最近の傾向として演奏者がしっかりプレゼンテーション能力を発揮する場合が多くなっている。
今回の公演では演奏会の堅苦しさが軽減され、全体として演奏家である創造者と観客の享受者に一体感のある場が実現するものと期待している。