2025年 6月号「アウトリーチから育つ芸術家を夢見て」
籾山 勝人
アウトリーチとは、「手を差し伸べる」、「積極的に対象者のいる場所に出向いて働きかける」といった位置付けで文化会館は、学校や福祉施設に出向いて音楽やダンス、演劇など対象場所でパフォーマンスをおこない対象者と文化施設や芸術家の双方向性を高める手法として取り組んでいる会館が全国で増えてきた。
公立文化施設のアウトリーチ活動状況は、地域創造の調査(注1)によると2019年度は市町村施設で39%、国全体では43%であった。2007年度の25.9%から比較すると大きな飛躍である。
さて、武豊町民会館ゆめたろうプラザのアウトリーチ活動状況はどうだろう。開始年度は2004年度、今年の5月で21回目になる。2010年度からは町内の小学4年生を対象に4小学校の全クラスを1週間かけてアーティストに出かけてもらう。アウトリーチ後は会館に戻り振り返りと週末の本番に向けて練習。それが毎日のルーティン。今年は、チェロの海野幹雄さんとピアノの海野春絵さん。演奏の素晴らしさに加えて、武豊町の歴史にも触れ、教室内で奏でたサン・サーンス「白鳥」が作られた1886年は、武豊町に日本国有鉄道(現JR東海)が蒸気機関車を走らせた年と同時代の説明に音楽と歴史のストーリーを学ぶ良い機会となった。「白鳥」が流れると「武豊に鉄道が走った日」と結びつく認知を持ったのではないか。



子どもの認知能力は、教育界の「小4の壁」といわれる発達段階で多くの事を吸収する段階で不安や好奇心がもたらすストレスなど様々な要素が交差する時期と聞く。ゆめたろうプラザが小学4年生を対象にするのも、音楽や身体表現の体感を直接感じてもらい発達の一助になればと続けている。小学生の皆さんより少し人生経験が豊富なアーティストのこれまでに歩んだストーリーが体験できるのも魅力であり、芸術家を身近に感じられる瞬間と思われる。
今回、アウトリーチを体感した393人の武豊町内の小学生。この体験から、ゆめたろうプラザの舞台で、町内の学校で、輝く将来の芸術家が生まれることを夢見て!


注1:出典(一財)地域創造「地域の公立文化施設に関する実態調査」