10月号 アーティスト・イン・レジデンスの可能性
館長 竹本義明
アーティスト・イン・レジデンスとは、アーティストが一定期間ある地域に滞在して、地域での生活を通じて芸術創造活動を行うことである。目的としては、アーティストと地域社会の交流で地域の活性化を目指し、創作環境をアーティストに提供することで、創造活動をうながし出来上がった作品を発表することまで含んでいる。
活動そのものはアートマネジメントの発足と重なり、我国においては若手の芸術家が文化庁や民間財団の派遣制度を利用して海外に一定期間滞在して創作活動を行い研鑽を積むことが行われ、国内においては1990年代から自治体が地域の歴史・文化と関連づけて地域の活性化や振興を目的に実施してきた。
滞在費や創作費用に対する助成の有無、渡航費用の負担、そして住居の貸与と成果発表機会の提供などが内容である。自治体などが管理する施設での実施例が多く、主に美術分野の中でも現代美術分野で活発に行われている。全国的には京都芸術センターや秋吉台国際芸術村でのアーティスト・イン・レジデンスが知られているが、現在は自治体が支援をする形で全国36ヶ所で演劇、ダンスに関わる舞台芸術、絵画、彫刻などの美術分野においてアーティスト・イン・レジデンスが行われている。東海地域では、岐阜県美濃市「美濃・紙の芸術村」、瀬戸国際セラミック&ガラスアート交流プログラム、とこなめ国際やきものホームステイなどがある。また、岐阜県中津川市(旧恵那郡加子母村)では、平成9年に若い芸術家のためヒノキ、スギなどの地元の間伐材を活用したアトリエ付き住宅「山村芸術工房」を中山間地域の文化・産業興しを目的に2棟を建設した。家賃、地代は5年間無料の条件に応募が殺到し、続いて2棟を建設、最終的に10棟程度の芸術村を目指したが、現在は中断している。
本館も事業計画にアーティスト・イン・レジデンスの実施を計画していたが、実現に至っていない。2009年1月24日から2月1日まで「絵の研究室」と称して、愛知県立芸術大学大学院美術研究科(油絵・版画領域)の大学院生3人が、会場であるギャラリーで制作の過程が分かるよう作品を設置し、スライドを準備しレクチャーを行った。内容としてはギャラリーが模擬住居として日々の制作過程が理解できるように考案されていた。出来上がった作品を鑑賞することと違う体験ができることで好評であった。最近は、近隣に住むヴァイオリニストの音楽家夫妻がCD録音のため本館を利用している。このように芸術家とホールが密接になることが、アーティスト・イン・レジデンスの意図するところと考えられ、今後ともその可能性を探ることとしたい。