7月号 地域公共ホールと芸術家支援
館長 竹本義明
「文化と経済が結びつく時代」と言われて久しいが、元来純粋芸術は公的補助や支援がなければ社会的に成り立たないとされている。一方でポピュラー芸術は、大量分配される商品として収益性を重視する運営を行うため、補助や支援をもとめることはないが、経済との結びつきが不可欠である。近代になって芸術の社会的存立が曖昧になり、一般市民から支援を期待するようになり、それにより芸術運営(アーツ・マネジメント)の必要性が叫ばれるようになった。
芸術支援の歴史は、古代ギリシャやローマまで遡るが、西欧における階級社会の中で多くの芸術の庇護者(パトロン)が存在したとされている。ルネサンス時代には宗教や民族娯楽、工芸などの社会的事象と結びつき、フィレンツェのメディチ家で大きく学芸保護が花開くこととなった。近代になると、中産階級の出現で芸術支援の主役が一般大衆へと拡大することとなるが、民衆が文化制度など社会の文化ニーズに応える形で活動し、鑑賞において人々の間接的接触が前提とされる芸術制度を生み出したとされている。現代は、近代の制度疲労により新しい考えが生まれ、創造者である芸術の側から社会へのアプローチが行われるようになってきた。
わが国では、1970年代以降全国に多くの文化ホールが建設され、財団や公的機関からの補助・支援制度が拡充することとなり、80年代には自主事業も展開され、文化施設が芸術支援に大きな役割を果たすこととなった。しかし、施設の老朽化や自主事業予算の削減により、貸館業務が主体となる施設・ホールが多くなっていることは残念である。今こそホールが積極的に事業を展開し、持てる機能を活用して芸術の庇護者として果たすべき責務があると考えている。現在、ホールが置かれている状況の中で早急な取り組みを要することは、アーツ・マネジメントに関わる専門職員を置くことであろう。
一朝一夕に改善は難しいと思われるが、限られた予算の中で地域の文化創造事業の実施を目指し、住民参加による体験・参加型事業、あるいは人材育成などを手がけ、地域の優秀な芸術家をレジデント・アーティストとして迎える方策が考えられる。また、住民ニーズに基づく公演の企画立案を行い、綿密な予算案を作成しリスクの少ない公演を実施することが望まれる。具体的には、空き施設の有効利用を図るとともに、観客動員に向けてはシリーズ化された公演に限った新たな会員制度の導入などが考えられる。そして、会館・ホールの役割として実演家を育てるという理念を明確に持つことが必要である。